【第5回】60歳からの再出発:会社という「肩書き」を脱ぎ、地域と家族に向き合う生き方

こんにちは、ウサタロウです。

前回の記事では、65歳で直面した再就職市場の「決定的なミスマッチ」についてお話ししました。私たちが長年培ってきた「頭脳や経験」を活かせる場は驚くほど少なく、社会がシニアに求めているのは「現場を支える手足」であるという冷徹な現実。そして、自分自身のプライドという重い荷物を少しずつ下ろした先に、新しい景色が見えてくる予感がしていることをお伝えしました。

今回は、時計の針を少し戻して、私が60歳で一度目の定年を迎えた際、なぜ「再雇用」ではなく「転職」という道を選んだのか、そしてその決断が現在の私にどのような変化をもたらしたのかについてお話ししたいと思います。

FP1級として若い世代に伝えたい「給与の真実」

まず、今現役でバリバリ働いている若い世代の皆さんに、FP1級として、少し厳しい「お金の現実」をお伝えしなければなりません。

皆さんは、自分の給与が定年まで右肩上がりに増え続ける、あるいは維持されると思っていませんか? 実は、給与は本人の実績や意欲とは関係なく、会社の「就業規則」というルールによって、ある日突然、大きく下がることがあります

その代表的なものが「役職定年制度」です。多くの企業では55歳から60歳の間で設定されており、部長や課長といった役職を退くことで、役職手当がなくなり、年収が2割から3割減少します。私がいたBハウスでも、一部の幹部職を除き、役職定年によって給与が2割ほどカットされる仕組みでした。

さらに衝撃的なのは、60歳以降の「再雇用制度」です。定年後に同じ会社で働き続ける場合、給与は定年前の6割から7割、企業によっては5割前後まで下がることが一般的です。私の場合、役職定年の対象外だったために下げ幅がさらに大きく、提示された給与は退職前の4割にも満たないものでした。

「自分は会社に貢献しているから大丈夫」と考えていても、労働契約や規則の前では無力です。「自分が勤めている会社の就業規則には何が書かれているのか」。今のうちから目を通しておくことを強くお勧めします。私のように、定年を迎えてからその「手痛い数字」に驚き、慌てることがないようにしてください。

なぜ、私はあえて「転職」を選んだのか

では、なぜ私はBハウスでの再雇用という「慣れ親しんだ環境」を捨て、60歳で転職を選んだのでしょうか。給与面だけで見れば、再雇用も再就職も大差はありませんでしたし、気心の知れた仲間がいる再雇用の方が、仕事もしやすかったはずです。

それでも私が転職を決意したのは、「今後の人生、老後をどう生きるか」を真剣に考えた結果でした。理由は大きく分けて2つあります。「家族との時間」と「仕事を辞めた後の生活」を見据えた準備です。

現役時代の私は、まさに「モーレツ社員」を絵に描いたような生活でした。若手時代、夜21時まで飛び込み営業をし、事務所に戻ってミーティングをして帰宅は午前2時。そんな毎日が、管理職になっても形を変えて続きました。単身赴任も多く、子供の受験はすべて妻に任せきり。家庭のことは何も知らない状態でした。

しかし、60歳という節目に立ち、「これからの人生、最後に隣にいてくれるのは誰か? 自分は何のために働くのか?」と自問自答しました。その答えは、「自宅から通える場所で、家族との時間を大切にし、自分の時間も持てる働き方をすること」だったのです。

私は退職後3ヶ月間、職業訓練校に通い、苦手だったパソコンスキル MOS Word/Excel/Accessなどを習得し直しました。そして、片道2時間かかっていた通勤を「車で15分」に短縮できる地元の不動産管理会社へと再就職したのです。

会社以外の「居場所」が、人生の充実度を決める

この決断がもたらした最大の収穫は、単なる「時間の余裕」ではありませんでした。それは、「地域社会」という新しい世界とのつながりです。

転職して時間に余裕ができたことで、私は地元の自治会長を引き受けることになりました。430世帯を抱える大きな自治会でしたが、そこでは私の「元ハウスメーカー支店長」としての建築知識が、思いがけない形で役立ちました。長年滞っていた公民館の改修計画を、行政との折衝や補助金申請、現場管理まで一手に担って形にしたのです。

自治会長を経験したことで、それまで40年住んでいながら縁のなかった子供会、老人会、行政の方々との知人が一気に増えました。そこには「支店長」という肩書きではなく、一人の「ウサタロウさん」としての交流があります。この縁をきっかけに始めた地元のスポーツクラブでは、県大会で準優勝し、全国大会への出場権まで得ることができました。これまでの仕事人生にはなかった、新しい充実感です。

私たちは、どうしても「会社での評価」に固執してしまいがちです。しかし、会社を離れた後も、誰かに認められたい、社会の役に立ちたいという欲求は消えません。むしろ、その「承認欲求」を地域社会や趣味の場で満たしていくことこそが、老後を豊かにする生きがいの一つになるのだと確信しています。

同世代の仲間の皆さん、そして将来のシニア世代である現役の皆さん。 会社という狭いコミュニティだけでなく、地域や趣味など、新しい人間関係を作るために、一歩外へ踏み出してみませんか。

キャリアをリセットし、プライドを少し脇に置く。そうして生まれた「余白」にこそ、人生の後半戦を輝かせる本当の出会いが待っています。

今日という日は、これからの人生で一番若い日です。 共に、新しい「居場所」を見つけていきましょう。